「暴行・傷害」に関するお役立ち情報
傷害事件の慰謝料を払わないとどうなるのか
1 慰謝料について
慰謝料とは、精神的苦痛を受けたことに対する賠償金のことです。
傷害事件においての慰謝料は、暴行を受け傷害を負ったこと、およびこれによって入院や通院などを余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する賠償金を含みます。
慰謝料は、けがをしたことによって必要となる治療費とは別のものです。
傷害事件を起こしてしまって、慰謝料を請求されたら、提示された通りの金額を全額払わなければいけないのでしょうか。
そして、もし全額払わなければ、その後はどうなるのでしょうか?
ここでは、傷害事件の慰謝料について解説していきます。
2 請求された慰謝料を払わなかったらどうなる?
⑴ 民事訴訟を提起される
被害者が慰謝料を請求しているのに、加害者がこれに応じない場合、民事訴訟を提起されることが考えられます。
そして、民事の裁判所から送られてくる書類を無視し、何の対応もしなければ欠席判決となり、原告(訴えた側)の言い分どおりの判決が出ます。
そして、その判決が確定すれば、自宅不動産(土地・建物・マンション)、預貯金、給与などに強制執行することができるようになります。
そこで、民事訴訟を提起されたら、訴訟対応が必要になります。
民事訴訟では、「答弁書」「準備書面」など、形式に沿った書面で、自分の言い分を的確に主張する必要があります。
このような民事訴訟への対応は、一般の人には難しく、やはり弁護士に依頼する必要が出てきます。
⑵ 刑事告訴される
被害者が慰謝料請求をしてきている場合、その時点では、必ずしも、刑事事件になっているとは限りません。
加害者が被害者にお金さえ払ってくれれば、わざわざ刑事事件にまでする必要はないと考えている場合もあるからです。
しかし、加害者が慰謝料請求を無視すれば、被害者は、そのような誠意のない対応をするのであれば、加害者に処罰を受けてほしいと考えて、刑事告訴する可能性があります。
また、民事裁判は時間がかかります。
被害者としては、それよりも、刑事事件にして、示談を申し出てもらった方がよいと考えることもあります。
告訴とは、犯罪事実を申告し、処罰を求める意思表示です。
これに対して、被害届では、犯罪事実を申告するものにとどまります。
⑶ 慰謝料を経済的に払えない場合
他人に損害を与えたら、これを賠償するのは当然のことです。
お金がないからという理由で逃げることはできません。
一方で、手元にまとまったお金もなく、払うあてもないのに、「100万円払います」などとできない約束をしても意味がありません。
約束どおりに払うことができなければ、約束を破ったとして、結局は、民事訴訟を提起されるか、刑事告訴される可能性があります。
そこで、具体的にどうすれば払うことができるのかを考え、分割払いの交渉をするべきでしょう。
そのような支払方法の交渉も、弁護士に依頼すれば、経済的事情に応じた無理のない支払方法による示談をまとめて、刑事告訴に至る前に事件を解決できる可能性があります。
3 慰謝料請求された場合の対応方法
⑴ 交渉を弁護士に依頼する
刑事処分を軽くしてもらうためにも、傷害事件の被害者とはいち早く示談を成立させることが重要です。
加害者が身柄拘束されていない場合、被害者の方から直接慰謝料を請求されることもあるでしょう。
放っておくと刑事告訴をされる危険性が高いので、ただちに交渉を開始するべきですが、当事者同士の交渉は感情的になりやすく、双方ともに慰謝料の相場や損害賠償額の計算方法が分かっているわけではないので、金額に開きが出て話が平行線になり、交渉が決裂してしまう可能性があります。
したがって、できるだけ早く示談をまとめて刑事告訴を避けるためには、示談交渉は、当事者同士で行わず、交渉に長けた弁護士に依頼をすることが望ましいといえます。
当事者同士の交渉が決裂した後に、民事訴訟を提起されれば、結局は、弁護士に依頼する必要がありますし、すでに刑事告訴をされている場合には、弁護士による、より迅速な示談が必要です。
被害者から慰謝料を請求される前に、速やかに弁護士に相談・依頼をすることをおすすめします。
⑵ 示談書の作成
被害者と慰謝料の額や支払い方法で合意できた場合には、きちんとした合意書(示談書)を作成しておく必要があります。
示談書には、できるだけ「刑事処分を望まない」「寛大な処分を望む」「宥恕(ゆうじょ=許す)する」というような、被害者が処罰を求める意思がなくなったことを示す言葉を入れてもらうことで、刑事事件の処分が有利になる可能性が高まります。
また、清算条項といって、「この和解に定める以外には、お互いに何らの債権債務もない」という条項を入れます。
これによって、紛争の蒸し返しを防止し、いつまでもずるずると請求されるという危険を回避することができます。
それだけでなく、清算条項の記載がなければ、被害の賠償が全部は終わっていないと疑われ、有利な事情として考慮してもらえなくなる危険があります。
このように、刑事手続において、有利に働いてくれる示談書を作成するには、弁護士に依頼しておいた方が安心です。
4 傷害事件の刑事手続について
⑴ 傷害事件の刑罰
刑法第204条(傷害罪)
人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する
傷害罪には、拘禁刑と罰金刑があります。
どちらも刑罰ですから、適用されると前科となります。
なお、罰金は国家に払うものであり、被害者に払うものではありませんから、被害者に払う慰謝料とは別なものです。
罰金を払わなければ、強制執行されるか、労役場に留置されます。
⑵ 傷害事件の検挙後の流れ
傷害事件では、逮捕される場合と逮捕されない場合があります。
それぞれの刑事手続の流れは、下記のとおりです。
①逮捕された場合
- ・逮捕から48時間以内に検察官へ身柄を送致する手続きがとられます。
- 検察官は身柄を受け取ってから24時間以内で、かつ逮捕から72時間以内に裁判所へ勾留請求を行います。
- ・裁判官による勾留状発付(勾留の許可)(原則は勾留請求の日から10日間身柄拘束/延長されると最大20日間身柄拘束)
- ・検察官による処分の決定(起訴、略式起訴、不起訴)
- 不起訴の場合:釈放
- 略式起訴の場合:身柄拘束のまま裁判所へ同行し、裁判所の命令書を受け取らせた後に検察庁で釈放し、そのまま検察庁の窓口で罰金を支払わせることが通常です。
- 起訴された場合:自動的に起訴後勾留に移行(勾留の期限は起訴した日から2か月間。更新あり。)
- ・起訴後勾留の段階では、保釈申請が可能になります。留置場所も拘置所に移送されます。
- ・刑事裁判
- ・判決
②逮捕されなかった場合
- ・警察の捜査
- ・送検
- ・検察の捜査
- ・検察官による処分の決定(起訴、略式起訴、不起訴)
- 不起訴の場合:刑事手続終了
- 略式起訴の場合:納付書で罰金を支払う
- 正式起訴された場合:刑事裁判
- ・判決
身柄拘束された場合には、起訴か略式起訴か不起訴かという決定が出るまでの期間が、逮捕から最大23日の間であるということが大きな違いになります。
刑事事件になってしまった場合、前科を避けるためには、不起訴処分を得る必要があります。
そして、不起訴を獲得するためには、被害者との示談交渉が重要になりますが、身柄拘束されてしまうと、その示談交渉をできる期間が限られてしまうのです。
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